皆さんこんにちは!
第171回直木賞候補作を読んでいます。
今回は青崎 有吾さんの『地雷グリコ』です。
本作は、本格ミステリ大賞、日本推理作家協会賞、山本周五郎賞の三賞を受賞されています。こ
結果を楽しみにしつつ、僕の感想は「スリリングでとても面白い作品」と感じました。
あらすじ
本作は5章とエピローグで構成されています。一章につきひとつのゲーム。合計で5つのゲームを登場人物たちは競います。
『ライアーゲーム』や『カイジ』シリーズのように、読みあい・騙しあいが醍醐味となる作品です。
登場するゲームは有名な遊びに独自のルールを加えたもの。一見単純そうなゲームですが、独自ルールが追加され、戦略の幅やゲーム性が増しています。
それぞれのゲームは以下の通りです。
地雷グリコ
坊主衰弱
自由律ジャンケン
だるまさんがかぞえた
フォールーム・ポーカー
例えば「地雷グリコ」について。
じゃんけんをする。
勝ったプレイヤーが階段を上る。
パーなら「パ・イ・ナ・ツ・プ・ル」で6段。チョキは「チ・ヨ・コ・レ・ー・ト」で6段。グーは「グ・リ・コ」で3段。
階段を登り切ったほうが勝ち。
ご存じの方も多いあのゲームです。
ただし、プレイヤーは互いに地雷を3か所の階段に設置することができます。対戦相手がその地雷を踏むと10段降りさせるという独自ルールです。
このゲームを戦っていくのが、主人公、射守矢真兎(いもりや まと)です。
彼女はちょっと軽薄そうな高校生ですが、とんでもない食わせ者です。
右手にはさっき購買で買ったいちごオレ。亜麻色のロングヘアに短めのプリーツスカート。ぶかぶかのカーディガンはいまにも肩からずり落ちそうで、だらしないから直せと毎日言っているのだけど改善の気配は一向にない。詐欺師みたいに口元だけで笑うと、彼女は軽快に名乗った。
「どもども、射守矢です。一年四組、射守矢真兎」
p6
ゲームは何かを賭けて行われますが、そこは一応、高校生です。
文化祭の出店場所をかけて。カフェの出禁を解除してもらうため。
ほのぼのとしたイメージでしょうか。
しかし、後半になるとギャンブルの要素が強くなります。
「Sメダル」
私立星越高校。創立80年の全国トップクラスのエリート校。そこでは、スカラシップ(奨学金)として、1枚10万円のSメダルが配られます。高校3年間を通して、生徒どうしがこのメダルを奪い合います。
大金の動くSメダル争奪戦の存在と、そこに加えて、射守矢真兎の個人的な過去が錯綜して、賭けの規模が大きくなっていきます。
ゲーム展開を楽しむ本
スリリングなゲーム展開と、勝ちをさらう爽快感。
本書の魅力はここに尽きると思います。ゲームの展開と勝敗が中心の話であり、緊張感があります。
自由とは大湖に張った薄氷だ。どこでも好きに歩いていけるが、その一歩一歩には、踏み込む強さも、角度も、足の置き場にも、確固たる思考が要求される。何も考えず進むものは氷を踏み抜き、溺れ死ぬ。
p154
ルールをいかに利用して勝つか。戦術と読みあいの見せ方によって次のゲーム次のゲームと、読み進めてしまう面白さ。
この「薄氷」の上をズカズカと進むように見える射守矢の大胆不敵さと戦略には病みつきになります。彼女の活躍は是非、本書をお楽しみください。
キャラクターについて
登場人物は、キャラが一面的で強く立ち上がってきます。
多面的で複雑な人物像もいいのですが、本作のキャラクターたちはいい意味で単純で軽妙です。そのためゲーム展開に集中できるのもよかったです。
主人公だけでなく、主人公と戦う強敵たちもいるから、スピンオフや続編に広がりそうです。
ゲームの独自ルールや展開についていくためには、少しだけ認知的な負担がかかる本作。
僕にとっては、状況を追いかけていくので疲れてしまいます。
終盤にいくにつれて、次第に魔法のような論理が展開されたりもします。
しかし、そこは本作のうまいところ。
図版による説明も加えられています。キャラクターの軽妙なところは、うまく息抜きが挟まれます。
そういう意味で、「塗辺くん」がいい味を出しています。
「塗辺くん審判が堂に入ってるね」と、真兎。
「こういうの好きなの?」
「委員長に頼まれたのでやっているだけです」
「部活どこ?ボードゲーム部?」
「ラクロス部です」
い、意外な事実が判明した。人は見かけによらない。
p21
「ちょうど十段下がりたいなーと思ってたんです。私が先輩よりも上の段に進んだらパンツを見られちゃうかもしれないですし」
「わざわざおまえのを見ようとは思わない」
「え~ほんとですか?塗辺くんはどう?」
「僕なら見ますね」
「やだなあ塗辺くん意外とムッツリ」
p30-31
おわり
面白い。そしていつまでも読んでいられる。良い作品でした。
『ライアーゲーム』は戸田恵梨香さん、松田翔太さんが出演されていたドラマをよく見ていました。『ライアーゲーム』ほどの人間の欲や絶望を描き出してはいないので、『地雷グリコ』は読みやすいのかな。でも『ライアーゲーム』、大好きだったなあ。
今日はここまで、最後までお読みいただきありがとうございました!
書誌情報
青崎 有吾『地雷グリコ』KADOKAWA、2023年、キンドル版
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