皆さんこんにちは!
本日は木下昌輝さんの『秘色の契り 阿波宝暦明和の変 顛末譚』の感想を書いています。
本作は、第172回直木賞(令和6年/2024年下半期)候補作品に選ばれています。
「せめて直木賞候補作はチェックしておきたい!」ということで手に取った一冊。
表紙の漫画のようなイメージに誘われるのですが、内容はちょっとヘビー。それでいて、筆致が軽快で次々と読み進めることができるのが著者のすごいところ。
詳しくは、本文で。それではお楽しみください!
あらすじ
藩政改革のお話。
時は江戸中期。阿波国徳島藩では9代目藩主が急逝した。残されたのは30万両の借金。藩を継いだ殿は道楽者として知られる蜂須賀重喜。彼は末期養子という、藩主が亡くなった後に藩を存続させるために招かれる養子だった。
藩政改革が急務の中、改革の障害は多い。内には旧来のやり方にこだわる家老たち。外には暗躍する「日本藩」と自称する集団。この殿は藩を導いていくことができるのか?
史実に題材をとりつつも、エンターテイメントの強い作品。
チームとして最高の結果を出すためには
チームには多様性が必要とよく言われます。
似た気質の人々が集まると、アイディアの幅は狭まります。一方で、多様な背景の人々が協力することではじめて、各々だけでは得られなかった着想が生まれます。その結果、チームとしての生産性は上がってくるし、良い結果をだせる可能性も高まっていくもの。
挫折しそうな時にも、多様性は強みになります。均一な集団よりも、多様な人が集まっていた方が柔軟な対応ができる。プロジェクトが頓挫しそうでも多様性によって駆動力が生じて、なんとか乗り越えて行けたりもする。
世はダイバーシティ時代。
相談してみて思いがけず解決策が決まるなんてことはよくありますよね。
多様性には緊張感がともなう
「一心同体と思っていた絆も、政の過酷さの前にはもろくあるぞ」
p24
「ひとつ、教えてくれ。忠兵衛よ、おぬしにとって明君とはなんだ。よき政治とはなんだ」
さすがに、まともに答えるのが馬鹿馬鹿しい問いかけだった。借財を減らし、有能な士を重用し、民を慰撫する。それ以外にあるはずがない。
「ご忠告、肝に銘じます」
p25
チームには多様性が必要ですよなんて、したり顔で言っておりますが。
しかし、本作を読むと多様性には緊張が強いられることも思い知らされました。
藩政改革の中心になる蜂須賀重喜は一度決心すると一気呵成。正しいものは正しいという姿勢は、性急さを生み、チームの毒にもなりえます。
旧規を大切にして、新規を慎まなければならないと考える家老を論破し、政局から排除する重喜。今の会社であったならパワハラ社長とのそしりを受けそうです。
藩内の抵抗勢力や藩外からの攻撃だけではありません。身内の中でも常に評価にさらされ、ある種の緊張感があります。
重喜の腹心の臣下たちすらも決して全面的に重喜の言動に肯定的ではありませんでした。
彼の打ち出す案はあまりにも早すぎる。百年は先を行くものです。重喜についていくのか、それとも彼と対立するのか。臣下たちも決断を迫られます。
小説としては、政局が次々と変化していく中でピリピリとした緊張感が病みつきになるんですけどね。
でも、これは仕方がないこと。
藩政改革という目標について各々が真剣に思うからこその緊張感。組織の中にあっては組織に頼らず。同調ばかりでは大成を成すことは難しい。
本作では「真剣白刃取り」のようなぎりぎりの綱渡りが続いていきます。タイミングとバランスのなかで、はらはらどきどきが楽しい作品です!
僕だったら、重喜や彼に追いすがった腹心たちのように、この緊張感に耐えることができるたでしょうか。世に出てくる「新しいこと」の背景には人知れず多くの心血が注がれていることに思い至ります。
はじめての木下昌輝さんの作品として
筆致のテンポがとてもよく、冗長さを全く感じなかったです。ピリッとした緊張感が通底しているのもテンポがいいから。
木下昌輝さんの筆致は、まるでその時代を感じさせるような鋭さと軽快さを持っていました。読んでいるうちに政治劇の緊張感がビシビシ伝わってきて、まるで自分もその場に立ち会っているかのような錯覚を覚えました。
最初から最後まで、大変面白い作品です。
それでは、今回はここまで。お読みいただきありがとうございました!
書誌情報
木下昌輝『秘色の契り 阿波宝暦明和の変 顛末譚』徳間書店、2024年
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